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淡々と暮らす

2008年12月号

小川なぎさ

晩秋の境内は様々な色のパッチワークのようで、まさに錦秋そのものです。落ち葉を踏みしめたときのカサカサと乾いた音や、少しずつ色の違う葉の絨毯の上を歩くのは不思議と気持ちが落ち着きます。それからまだまだ小さい寒桜ですが、たくさん花をつけています。皆様のご協力や時間という力で境内は年々すばらしい景観になっていくようです。京住院の庭も完成し、また少し違う空間が出来上がっています。来年は是非四季折々に境内の散策にお出かけ下さい。京都のお寺にあるような文化財的な庭ではないのに、この気持ちのよさはなんなのだろうとよく考えることがあります。造園の手法が入りつつあたかも自然のままのような心地よさは、20年以上かけて少しずつ作り上げてきたからなのかも知れません。宝物ですね。

さて、最近の私は色々なことをやろうとする気持ちが湧いてきました。秋の実りをたくさんいただいた時には、本を片手に漬物や、ジャム、料理などを楽しんで作っています。夜は本を読んだり、繕いものをしたりと地味ではありますが、落ち着いた静かな暮らしは穏やかな気持ちを取り戻せるのでとても良い時間です。あとは何かスポーツでもはじめて、なまった身体を燃やすことが最終目標でしょうか。

毎月の診察のついでに10年振りに血液検査を受け、高脂血症といわれて毎日の食事を野菜中心の質素な献立にするようになりました。住み込みの弟子もいなくなり、住職と2人の食卓はご馳走がなくてもなんだか楽しいもので、私はきっと主婦の仕事は性に合っているのだと思います。春になるまでもうしばらくのんびりさせていただいて、来年はまたがんばります。行事の際に私が休んだりしてもなんの不都合もなく進めてくださったお手伝いのみなさまありがとうございました。

数日前の嵐で銀杏の実がすべて落ちきりました。宮沢賢治の短編に『いちょうの実』という本当に短い小説があります。今日こそは銀杏の実の旅立ち、母である銀杏の木と別れが迫っている子どもたちの会話が綴られています。とてもあたりまえでそれなのに胸をうつ優しさにあふれている会話なのです。『北から氷のように冷たい透きとおった風がゴーッと吹いて来ました。「さよなら、おっかさん。」「さよなら、おっかさん。」子供らはみんな一度に雨のように枝から飛び下りました。』まさにそのとおりの光景でした。

遠方に住む友人の母の訃報にお題目を書いて送ったという賢治、法華経の熱心な信者だったと聞きます。その優しさあふれる文章を思い出しながら銀杏を拾っています。毎日を丁寧に、優しい気持ちで淡々と暮らしてゆく。賢治の世界のようにと思っています。

本堂前の銀杏の実は除夜の日に皆さんにさし上げます。どうぞ暖かくしてお出かけ下さい。

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