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『葬儀の事前契約』

2016年3月


葬儀をしてくれる人のいない不安

神奈川県のA子さんが安穏廟を契約されたのは平成6年でした。生涯独身で大企業の社長宅の住込みお手伝いさんなどを勤め、華やかな暮らしぶりの時期もあったそうです。ご自分の判断で高齢者施設に入居し、その後心身ともに弱ったので1歳年下で89歳の妹B子さんに後事を託しました。

託されたB子さんもご主人が亡くなり、一人娘は遠方に嫁いで一人暮らしです。「自分の方が先に逝くかもしれない。今ですらとても葬儀は勤まらない。葬式と埋葬だけでも妙光寺さんにお願いしたい」そう考えて、ひとりで電車を乗り継ぎ訪ねて来られたのは一昨年の秋も深まった頃でした。
 

1年がかりの契約

秋の日は短く、すぐに暗くなります。泊まっていただきじっくりお話を伺いました。A子さんは認知症も出始めているということでした。でも、残念ながらこの時はいくつかの問題点があって、お引き受けは難しいとお話しました。私の説明をきちんと受け止め、翌朝「ではこうしたらどうでしょうか」とご高齢なのにしっかりと、柔軟に考えておられるのに驚かされました。

私の挙げた問題点は、まず葬儀の事前契約は本人との契約が前提なので、本人が認知症では契約も、費用の事前払込もできないこと。次に葬儀会館等では予め費用が読めないので、事前契約は妙光寺での葬儀を前提にしています。その際親族がいないと県外からご遺体を搬送する手配が難しいこと。そして法律では役所への死亡届は親族または病院長などに限られていて、妙光寺ができないこと。この3点でした。これらを乗り越えるのは難しく、小さなお身体の肩を落として帰られたB子さんの後ろ姿が、いまも目に焼き付いています。

その後も、電話とお手紙でやり取りが続きました。B子さんから「新潟に行ってご相談したい」との言葉を幾度か頂きました。私は高齢の道中を案じて、「なんとか解決策をみつけますから」と説得しました。そして幸い、先頃全てが解決できたのです。 その解決策は次の3点です。契約については、B子さんが姉A子さんの任意後見人なので、B子さんを契約者とする。銀行が姉の口座からの引き下ろしに同意しないときは、B子さんが自分の所持金で費用を納めると言われた。ご遺体は、神奈川県内から妙光寺への搬送を引受ける業者を、数社見つけた。死亡届は、数年前の法律改正で、妙光寺のような立場でも死亡届が出せると弁護士から回答があった。これを基に作成した文書を弁護士に確認してもらって、契約を交わすことができました。ご相談が始まってからちょうど1年が過ぎ、これで私も本当にほっとしました。
 

感謝の手紙

今年の正月も過ぎた1月半ば、B子さんからお手紙を頂きました。「新春のお喜びを申し上げます。本年もよろしくお願いします。お送りいただきました書類を何時お届けしたらよいかためらいましたが、去る12月26日、姉A子のもしもの際の連絡先≠施設の所長さんにお会いして、お渡しさせていただきました。その際20年前の夏のお盆に伺った折に撮った、妙光寺さんでの寫眞(ルビしゃしん)も見ていただきました。お陰様で無事に済ます事が出来有難うございました。どうぞよろしく御願い申し上げます。かしこ」

お手紙には「アメリカの市民がパールハーバーをいつまでも忘れないように、ぼくたち日本人は長崎と広島を永遠に記憶し続け、ぼくたちの国が二度と戦争をする、戦争に参加するというようなことをしないためにこそ、『憲法9条』があることを、確認し続けたい、としきりに思う今日この頃です」とありました。

いつもと同じ、まるでペン習字のお手本のようなきれいな文字です。待ち続けた姉のために何とかしてあげたい切実な気持ちと安堵感が伝わる文章に、心洗われる思いでした。

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